東洋医学を基にした鍼(はり)と灸(きゅう)の施術を行う国家資格で、どちらも厚生労働省の管轄であり、国家試験に合格することで免許が取得できます。
【はり師・きゅう師とは?】
- はり師:金属の鍼をツボに刺し、血行促進や痛みの緩和を図る
- きゅう師:もぐさなどを使った温熱療法で、体を温めて治療する
どちらも東洋医学の「経絡(けいらく)」や「ツボ」を活用した治療法であり、慢性的な痛みや自律神経の調整、スポーツ障害などに効果があるとされています。
目次
受験資格と難易度
養成課程を修了する
厚生労働省の認可を受けた専門学校・短期大学・大学で、はり・きゅうに関する3年以上の教育課程を修了することが必要です。
- 専門学校(3年制)
- 短期大学・大学(3年以上、所定の課程を修了すること)
※ 通信教育のみでは資格取得不可(一部、通学と併用の制度あり)
医師免許を持つ場合
すでに医師免許を取得している場合、学校に通わなくても国家試験の受験が可能。
難易度
合格率
- はり師・きゅう師の**合格率は70~80%**程度
- 例年、多くの受験者が両方の資格を同時に取得する
出題形式と合格基準
- マークシート形式(筆記試験のみ)
- 全体の60%以上を得点すれば合格
- 特定の科目で極端に低い点数を取ると不合格(足切りあり)
試験の難しさ
- 合格率は高めだが、勉強は必要
- 医学系の知識(解剖学・生理学・病理学)が多く、暗記量が多い
- 東洋医学の概念(経絡・経穴・気血水など)を理解する必要がある
- しっかりと勉強すれば、未経験者でも合格可能
試験内容
試験科目
はり師・きゅう師の試験科目は、共通科目と専門科目に分かれています。多くの受験者は両資格を同時に受験しますが、はり師・きゅう師で異なる科目が一部存在します。
共通科目
はり師・きゅう師の両方に関係する科目です。
科目名 | 内容 |
---|---|
医療概論 | 医療倫理・医療法規・医療安全・感染症対策 |
解剖学 | 骨・筋肉・神経・血管などの人体構造 |
生理学 | 体の機能(呼吸・循環・消化・内分泌など) |
病理学概論 | 病気の原因・発症メカニズム・病態生理 |
臨床医学総論 | 内科・外科・整形外科・皮膚科・精神科などの総論 |
衛生学・公衆衛生学 | 健康管理、予防医学、疫学、環境衛生 |
東洋医学概論 | 陰陽五行、気・血・水、経絡、証(診断の考え方) |
専門科目
はり師・きゅう師で試験範囲が分かれます。
科目名 | 内容 | 該当資格 |
---|---|---|
はり理論 | 鍼の種類、刺鍼技術、適応症、禁忌、施術方法 | はり師 |
きゅう理論 | 灸の種類、施灸技術、適応症、禁忌、施術方法 | きゅう師 |
東洋医学臨床論 | 東洋医学的な診断法(四診:望診・聞診・問診・切診) | 両方 |
関係法規 | あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師に関する法律 | 両方 |
試験の出題形式
- マークシート方式
- 全科目で120~130問程度
- 試験時間:1日で実施(午前・午後)
- 共通科目と専門科目がバランスよく出題
試験対策
1. 試験対策のポイント
① 過去問を徹底的に活用
- 国家試験では過去問と類似した問題が頻出するため、過去5~10年分を解く
- 間違えた問題の解説を確認し、同じミスを防ぐ
- 問題パターンに慣れることで、試験本番の対応力を高める
② 医学の基礎知識をしっかり固める
- 解剖学・生理学は基礎中の基礎なので、暗記だけでなく理解する
- イラストや図表を活用し、人体構造を視覚的に覚える
③ 東洋医学の独特な概念を理解する
- 陰陽・気血水・五行説・経絡など、東洋医学の基礎理論を確実に覚える
- 症状ごとの証(診断方法)を整理し、適切な治療法を選べるようにする
④ 重要ポイントをノートにまとめる
- 自分専用のまとめノートを作成し、試験直前に見直せるようにする
- 公式・法則・禁忌事項を短くメモしておくと効率的
⑤ 各科目の足切り対策
- 総得点が60%以上でも、一部の科目で極端に低いと不合格になる
- 苦手科目をなくし、全体的にバランスよく点数を取るようにする
2. 科目別の勉強法
① 解剖学・生理学(共通科目)
- 出題数が多いため、確実に点を取るべき科目
- 人体の構造(骨・筋肉・神経・血管)をイラストで確認
- 重要なホルモンや神経伝達をまとめて覚える
② 病理学概論・臨床医学総論(共通科目)
- 病気の原因・発症メカニズム・症状を整理
- 疾患ごとの特徴を表にまとめると暗記しやすい
- 臨床医学では、疾患とその治療法・禁忌を押さえる
③ 東洋医学概論・東洋医学臨床論
- 「陰陽」「気血水」「五行説」「証」などを正しく理解
- 経絡(けいらく)・経穴(ツボ)を覚え、適応症を整理
- 実際の症例を想定し、どのツボを使うか考える
④ はり理論 / きゅう理論
- はりの種類・刺入方法・禁忌事項を覚える
- 灸の種類(直接灸・間接灸・棒灸など)と適応症を理解
- 施術の実際をイメージしながら学ぶ
⑤ 関係法規(法律・制度)
- 「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」を確認
- 施術できる範囲・禁止事項をしっかり押さえる
- 医療安全・感染症対策に関するルールを暗記
取得後に出来ること
1. 鍼灸院の開業
個人で独立開業
- はり師・きゅう師の国家資格を持つと、自分の鍼灸院を開業できる
- 整骨院や整体院と併設して運営するケースも多い
- 自費診療がメイン(一部の症状は医師の同意書があれば健康保険適用)
訪問鍼灸
- 高齢者や障害者向けに**訪問施術(在宅鍼灸)**を提供
- 介護保険や医療保険を活用し、利用者の負担を軽減できる
2. 医療機関や福祉施設での勤務
整形外科・クリニック
- リハビリテーションの一環として鍼灸を活用
- 西洋医学と東洋医学を組み合わせた治療を提供
介護施設・デイサービス
- 高齢者向けの鍼灸ケア(関節痛・腰痛・リラクゼーション)
- 機能回復・疼痛緩和の施術を担当
病院での勤務
- 鍼灸を取り入れる統合医療を実施している病院で働ける
- がん治療の副作用軽減や自律神経の調整などの目的で活用
3. スポーツトレーナー
- アスリートのケア(筋肉疲労の回復・コンディショニング)
- プロスポーツチームやジムと契約し、トレーナーとして活動
- ストレッチ・マッサージと組み合わせて施術できる
4. 美容鍼灸
- リフトアップ・小顔・シワ改善などの施術が可能
- エステサロンや美容クリニックで働くこともできる
- 「美容鍼灸専門院」として独立開業するケースも増えている
5. 教育・研究機関での活動
- 鍼灸学校の講師として、次世代の鍼灸師を育成
- 鍼灸治療の研究・開発に関わる
- 大学や専門学校と連携し、学術的な活動を行う
6. ダブルライセンスでキャリアアップ
はり師・きゅう師の資格を取得後、他の医療・健康系資格と組み合わせることで、さらに活躍の幅が広がる。
組み合わせる資格 | 活用方法 |
---|---|
柔道整復師 | 整骨院・接骨院を開業し、保険適用施術も提供 |
あん摩マッサージ指圧師 | 鍼灸+マッサージで総合的な施術が可能 |
理学療法士 | 病院やリハビリ施設での治療に携わる |
医療系資格(看護師など) | 医療機関での統合医療に従事 |
健康・スポーツ系資格 | パーソナルトレーナーやフィットネス業界で活動 |
7. 収入の目安
資格取得後の働き方によって収入は異なりますが、開業や専門分野での経験を積むと高収入も可能です。
働き方 | 年収の目安 |
---|---|
鍼灸院のスタッフ(勤務) | 300万~500万円 |
訪問鍼灸(個人・法人) | 400万~700万円 |
美容鍼灸(自費診療) | 500万~800万円 |
スポーツトレーナー | 400万~900万円 |
独立開業(成功すれば) | 600万~1000万円以上 |