歯科技工士

歯科医師の指示に従って、入れ歯(義歯)、さし歯、金冠や歯ならびの悪いものを正しい位置にするための矯正装置の製作、修理にあたるなど、歯科医療の一端を担う、近代歯科医療においては欠かせない存在の医療技術者です。

入れ歯(義歯)、被せ物(クラウン)、矯正装置、インプラントなどの歯科補綴物(ほてつぶつ)を製作・修理・調整する専門職であり、国家資格が必要で歯科医師の指示に基づき、患者の歯の形や噛み合わせに合わせた補綴物を作る重要な役割を担います。

主催
厚生労働省
(社)日本歯科技工士会

受験資格と難易度

1. 受験資格

歯科技工士の国家試験を受験するためには、厚生労働省指定の養成課程を修了することが必須です。

① 歯科技工士養成校(専門学校・短大・大学)を修了

  • 厚生労働大臣が指定する歯科技工士養成機関(専門学校・短大・大学)を卒業
  • 修業年限は2年以上
  • 所定の単位(歯科技工学・歯科解剖学・材料学・実習科目など)を取得

② 実務経験は不要

  • 養成校を卒業すれば、実務経験がなくても国家試験を受験可能
  • 現場での経験がなくても資格取得後にすぐ働ける

2. 国家試験の難易度

① 合格率

  • 例年の合格率は60~80%
  • 適切な学習をすれば合格可能なレベル

② 試験の特徴

  • 筆記試験(マークシート方式)と実技試験の両方がある
  • 筆記試験は暗記量が多く、幅広い知識が必要
  • 実技試験は手作業が求められ、技術力が試される
  • 足切り基準があり、一部の科目で極端に低い点数を取ると不合格

③ 試験の難しさ

項目 難易度のポイント
筆記試験 暗記量が多く、全科目をバランスよく学習する必要あり
実技試験 模型製作の精度が求められ、実習経験が重要
足切り対策 一部の科目で極端に低い点数を取ると不合格になる

試験内容

1. 試験概要

試験科目 形式 時間
筆記試験 マークシート方式(択一式) 午前・午後の2部構成
実技試験 義歯・クラウンなどの製作 4~6時間(試験会場による)
  • 筆記試験は1日で実施
  • 実技試験は、各都道府県の指定会場で行われる
  • 筆記試験の合格率は60~80%
  • 合格基準総得点の60%以上 + 実技試験も一定の基準を満たすこと
  • 特定の科目で極端に低い点数を取ると不合格(足切り制度あり)

2. 筆記試験の内容(マークシート方式)

筆記試験では、基礎医学・歯科材料学・歯科技工学・関係法規など、幅広い知識が問われます。

① 基礎医学分野

科目 内容
歯科解剖学 歯の構造、歯列、噛み合わせ、顎関節の解剖
歯科生理学 咀嚼・嚥下(飲み込む動作)、唾液分泌、歯の神経
口腔病理学 虫歯・歯周病・顎関節症などの口腔疾患
歯科理工学 歯科技工に使用する材料の特性(金属・セラミック・レジンなど)
公衆衛生学 口腔衛生、歯科予防、感染症対策

② 歯科技工学分野

科目 内容
有床義歯技工学 総義歯・部分義歯(入れ歯)の設計・製作
クラウンブリッジ技工学 被せ物・ブリッジの作成、噛み合わせの調整
歯科矯正技工学 矯正装置(ワイヤー矯正・マウスピース矯正)の設計
インプラント技工学 インプラント用人工歯の製作
歯科CAD/CAM技工 デジタル歯科技工(3Dスキャン・3Dプリンター技術)

③ 関係法規

科目 内容
歯科技工士法 歯科技工士の業務範囲、資格要件、開業条件
医療法・歯科医師法 歯科医師との連携、歯科技工士の法的責任
健康保険制度 保険適用技工物と自費診療の違い
労働安全衛生法 歯科技工所での安全管理、感染防止対策
筆記試験のポイント
  • 問題数は約120~150問
  • 出題形式はマークシート(4択・5択)
  • 過去問の類似問題が多く、出題傾向を把握すると有利
  • 公衆衛生や法規は暗記で得点しやすいため、得点源にする

3. 実技試験の内容

実技試験では、実際の歯科技工作業を行い、技術の精度が評価されます。

① 有床義歯(入れ歯)の製作

  • 義歯のワックスアップ(模型製作)
  • 噛み合わせの調整
  • 人工歯の排列(歯並びを整える作業)
  • 適合精度(歯肉や顎の形に合うか)

② クラウンブリッジ(被せ物・ブリッジ)の製作

  • クラウン(被せ物)のワックス形成
  • 適切な形態・噛み合わせの調整
  • 鋳造技術の基本を理解し、精密な作業を行う

③ 矯正装置の製作

  • ワイヤー矯正装置の設計・作成
  • マウスピース型矯正装置の模型製作
  • 適切な歯列矯正の設計ができるか
実技試験のポイント
  • 時間制限内(4~6時間)で作業を終えることが重要
  • 細かい作業が多く、精度の高い模型製作が求められる
  • ワックスアップ(歯の形を作る作業)の技術が試される
  • 実習で何度も練習し、スピードと精度を向上させる必要がある

4. 試験の特徴と難易度

項目 特徴
試験形式 筆記(マークシート)+ 実技試験
筆記試験の合格基準 総得点60%以上(科目ごとの足切りあり)
実技試験の合格基準 一定の品質基準を満たす必要あり
合格率 60~80%(対策すれば合格可能)
難易度の特徴 暗記量が多く、実技の習熟度が重要
試験対策のポイント 過去問演習 + 実技練習を徹底

試験対策

1. 科目別試験対策

① 基礎医学分野(歯科解剖学・生理学・口腔病理学)

  • 歯の構造・歯列・顎関節の動きを図解で学習
  • 咀嚼・嚥下(飲み込む動作)、唾液分泌のメカニズムを理解
  • 虫歯・歯周病・顎関節症などの口腔疾患を整理
  • 人体の骨格と歯の位置関係を覚える(頭蓋骨の構造を意識)

② 歯科技工学分野

有床義歯技工学(入れ歯の製作)
  • 総義歯・部分義歯の設計・適合技術
  • 人工歯の排列(歯並び)と噛み合わせの調整
  • 義歯の維持力と安定性を考慮する
クラウンブリッジ技工学(被せ物・ブリッジの製作)
  • クラウン(被せ物)の適切な形態・噛み合わせの調整
  • ワックス形成の精度を高める
  • 材料の選定(メタル・セラミック・ジルコニア)を理解
矯正歯科技工学(矯正装置の製作)
  • ワイヤー矯正装置の設計・作成
  • マウスピース型矯正装置の製作技術を理解
インプラント技工学
  • インプラントの構造・適合基準を学ぶ
  • 人工歯の強度・耐久性・審美性を考慮する

③ 歯科理工学(歯科材料学)

  • 歯科技工に使用する材料(金属・セラミック・レジンなど)の特性を暗記
  • 各材料の適応症・禁忌・加工方法を整理
  • CAD/CAM技工(デジタル歯科技工)についての最新技術を学ぶ
  • 3Dプリンター技術やコンピューター制御技工の知識を深める

④ 関係法規(歯科技工士法・医療法・労働安全衛生法)

  • 歯科技工士の業務範囲・資格要件を理解
  • 歯科技工所の安全管理・感染防止対策を学ぶ
  • 保険適用技工物と自費診療の違いを押さえる
  • 試験で得点しやすい分野なので、暗記を徹底する

2. 具体的な学習スケジュール

時期 勉強内容 ポイント
6~4か月前 教科書・参考書で基礎知識を習得 全科目の基礎を押さえ、理解を深める
3か月前 過去問開始(1周目) 出題パターンを把握し、苦手分野を特定
2か月前 過去問2~3周目+苦手克服 弱点科目を補強し、知識を定着
1か月前 模試・総復習 本番と同じ時間配分で模試を実施
直前 重要ポイントの確認 新しい知識を詰め込まず、復習に集中

取得後に出来ること

1. 歯科技工所での勤務

最も一般的な働き方として、**歯科技工所(歯科補綴物製作専門のラボ)**で働くことができます。

歯科技工所の業務

  • クラウン(被せ物)やブリッジの製作
  • 入れ歯(義歯)の製作・修理
  • 矯正装置の作成
  • インプラントの人工歯部分の製作
  • ホワイトニング用マウスピースの作成
  • CAD/CAM技術を活用したデジタル歯科技工

2. 歯科医院内での勤務(院内技工士)

歯科医院に院内技工士として勤務し、歯科医師と直接連携しながら補綴物を製作する働き方もあります。

院内技工士の業務

  • 患者の口腔内に合わせた義歯・クラウン・ブリッジの製作
  • 患者の要望を反映した審美的な歯科技工
  • 歯科医師とコミュニケーションを取りながら即時対応可能

3. 矯正専門の歯科技工士

矯正歯科に特化した技工士として、矯正装置の製作・調整を行うことも可能です。

矯正技工士の業務

  • ワイヤー矯正装置の作成
  • マウスピース型矯正装置(インビザラインなど)の製作
  • 患者の歯並びに合わせたオーダーメイドの矯正装置の提供

4. インプラント専門の歯科技工士

歯科医療の進歩により、インプラント技工士の需要が急増しています。

インプラント技工士の業務

  • インプラントの人工歯部分の製作
  • デジタル技術(CAD/CAM・3Dプリンター)を活用した精密技工
  • 患者の咬合(噛み合わせ)に合わせたオーダーメイドのインプラント補綴

5. 研究・開発分野での勤務

歯科技工士としての知識を活かし、大学・研究機関・企業での研究開発に携わることもできます。

研究開発の業務

  • 歯科材料メーカーでの新素材開発
  • CAD/CAM技術や3Dプリンター技術の研究
  • 大学や専門学校の講師として後進を育成

6. 独立開業

歯科技工士は、条件を満たせば歯科技工所を開業可能です。

独立開業の業務

  • 歯科医院からのオーダーを受けて補綴物を製作
  • インプラント・矯正・審美歯科技工に特化した事業展開
  • 自費診療の高単価な補綴物を中心に製作

7. 収入の目安

歯科技工士の年収は、働き方や専門分野によって大きく異なります。

働き方 年収の目安
歯科技工所(勤務) 300万~500万円
歯科医院(院内技工) 350万~600万円
矯正・インプラント専門技工 400万~700万円
研究職(メーカー・大学) 450万~800万円
独立開業 600万~1000万円以上

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)