臨床工学技士

病院などの医療機関で生命維持装置(人工心肺装置、透析装置、人工呼吸器など)の操作・保守・管理を行う国家資格です。

医療機器の専門家として、医師・看護師と連携しながら患者の治療を支えます。

主催
(財)医療機器センター
(社)日本臨床工学技士会ホームページ

受験資格と難易度

1. 受験資格

臨床工学技士国家試験を受験するには、厚生労働省が定める条件を満たす必要があります

① 臨床工学技士養成課程を修了する(最も一般的)

以下のいずれかの学校で指定のカリキュラムを修了する必要があります。

学校の種類 修業年数 主な学習内容
大学(4年制) 4年 基礎医学+医用工学+臨床実習
短大・専門学校(3年制) 3年 基礎医学+医用工学+臨床実習
大学(2年制編入) 2年 他の医療資格者向けの短縮課程
  • 3年制 or 4年制の臨床工学技士養成課程を修了すると受験資格を得られる
  • 4年制の方がより専門的な学習ができ、就職で有利になる場合もある

② 他の医療系資格を持っている場合、1年の養成課程を修了する

すでに以下の資格を持っている場合、臨床工学技士の養成校で1年間の専修課程を修了すれば受験資格が得られる

資格
看護師 病院での臨床経験を活かせる
臨床検査技師 生理検査・血液検査の知識が応用可能
診療放射線技師 画像診断と併用する機器管理に役立つ

③ 海外の臨床工学技士資格を持っている場合、厚生労働省の認定を受ける

  • 外国の同等資格を持っている場合、個別審査により受験資格が認められることがある
  • 国によっては追加の研修や試験を求められる場合もある

2. 試験の難易度(合格率・出題内容)

合格率の推移(過去5年)

年度 受験者数 合格者数 合格率
2023年 約3,000人 約2,400人 約80%
2022年 約3,100人 約2,500人 約81%
2021年 約3,200人 約2,500人 約78%
2020年 約3,300人 約2,600人 約79%
2019年 約3,400人 約2,700人 約80%
  • 合格率は毎年75〜80%前後と比較的高め
  • 養成校のカリキュラムをしっかりこなせば合格しやすい
  • 独学だけでは厳しく、養成校での実習・講義が重要

3. 試験の内容と難易度

臨床工学技士国家試験は、以下の3分野から出題されます。

① 基礎医学(人体の仕組みを理解)

科目 主な内容 難易度
解剖学 臓器・組織の構造 ★★★☆☆
生理学 心臓・肺・腎臓の働き ★★★☆☆
病理学 疾患の原因・病態 ★★★★☆
薬理学 薬の作用・副作用 ★★★☆☆

ポイント

  • 医療の基本知識が問われるが、難易度は標準レベル
  • 解剖学や生理学の理解が透析・人工呼吸器管理に直結する

② 工学系(医療機器の理解が必要)

科目 主な内容 難易度
電気工学 電圧・電流・回路理論 ★★★★★
電子工学 センサー・トランジスタ・制御理論 ★★★★★
機械工学 ポンプ・流体力学・人工心肺装置の原理 ★★★★☆
医療機器学 人工呼吸器・透析装置の構造 ★★★★☆

ポイント

  • 電気・電子工学の基礎知識が必要(文系出身者は苦戦しやすい)
  • 工学分野が苦手な場合、早めに対策を始めるのが重要

③ 医療機器と安全管理(実際の業務に直結)

科目 主な内容 難易度
人工呼吸器 換気モード・設定方法・トラブル対応 ★★★★☆
透析装置 血液透析・腹膜透析の原理・管理 ★★★★☆
人工心肺装置 心臓手術での使用・ECMO管理 ★★★★★
医療安全 感染対策・機器のメンテナンス ★★★☆☆

ポイント

  • 実際の臨床現場で使用する機器の知識が必要
  • 国家試験対策だけでなく、実務にも直結する内容が多い

試験内容

1. 試験概要

  • 試験日程:毎年3月(1日間実施)
  • 試験形式マークシート方式(五肢択一)
  • 試験時間:午前・午後の2部構成(計6時間)
  • 試験科目:基礎医学、臨床医学、医用工学、医療機器学 など
  • 合格基準総得点の60%以上(例年の目安)

2. 試験科目と詳しい出題内容

国家試験では、以下の3つの分野から出題されます。

① 基礎医学(人体の構造と機能)

基礎医学は、臨床工学技士として医療機器を扱うために必要な人体の基本的な仕組みを理解する分野です。

科目 主な内容 出題のポイント
解剖学 骨・筋肉・臓器の構造 主要臓器(心臓・肺・腎臓など)の構造を重点的に学習
生理学 循環・呼吸・神経・内分泌系 生体の機能、ホメオスタシス、神経伝達の仕組み
病理学 疾患の成り立ちと分類 心筋梗塞・糖尿病・がんなど主要疾患の特徴
薬理学 主要な薬の作用機序 降圧薬、抗凝固薬、鎮痛薬などの作用と副作用

② 臨床医学(病気の理解と治療法)

臨床医学では、医療機器を適切に扱うために必要な疾患の知識と治療法が問われます。

科目 主な内容 出題のポイント
循環器 心不全・不整脈・心筋梗塞 心電図の読み方、ペースメーカー・人工心肺装置の適応
呼吸器 COPD・ARDS・肺炎 人工呼吸器の設定と適応疾患
腎・泌尿器 慢性腎不全・急性腎障害 血液透析・腹膜透析の適応
救急・集中治療 ショック・蘇生 ECMO、輸液管理、ショック時の対応

③ 医用工学・医療機器学(臨床工学技士の専門分野)

臨床工学技士のメインとなる医療機器の知識や工学的原理が問われます。

工学系(電気・電子・機械)

科目 主な内容 出題のポイント
電気工学 電圧・電流・抵抗・回路 オームの法則、直流・交流回路
電子工学 トランジスタ・センサー 増幅回路、オペアンプ、バイオセンサー
機械工学 流体力学・ポンプの原理 血液ポンプ、人工心肺装置の流量計算

医療機器学(機器の原理と安全管理)

機器 主な内容 出題のポイント
人工呼吸器 換気モード(IPPV・CPAP・BiPAP) 各モードの違い、適応疾患
透析装置 血液透析・腹膜透析の仕組み 透析液の成分、透析効率(Kt/V)
人工心肺装置 血液ポンプ、酸素供給 体外循環の管理、ECMOの設定
ペースメーカー 心電図、ペーシングモード VVI、DDDモードの違い

3. 試験問題の形式と時間配分

試験は以下のように構成されます。

午前試験(9:30~12:30)

  • 基礎医学(解剖・生理・病理・薬理)
  • 臨床医学(循環器・呼吸器・腎臓・救急)

午後試験(13:30~16:30)

  • 医用工学(電気・電子・機械)
  • 医療機器学(人工呼吸器・透析・人工心肺)

各試験時間:3時間(午前・午後の2部制)
全問題数:約200問(五肢択一式)

試験対策

1. 勉強の全体戦略(スケジュール管理)

試験までの期間を考え、段階的に学習を進めることが重要です。

期間 学習内容
4〜6月(試験約1年前) 基礎医学・電気工学の復習(解剖・生理・病理・オームの法則)
7〜9月(試験6〜9ヶ月前) 臨床医学・医療機器学の理解(人工呼吸器・透析・ペースメーカー)
10〜12月(試験3〜6ヶ月前) 過去問演習・模試受験・苦手分野の克服
1〜2月(試験直前期) 総復習・暗記系(法規・計算問題)を重点的に
3月 国家試験本番

ポイント

  • 4〜9月は基礎固め(教科書・参考書をしっかり読む)
  • 10月以降は実践問題(過去問・模試)を繰り返す
  • 直前期(1〜2月)は、暗記系・計算問題を重点的に学習

2. 科目別の効果的な勉強法

① 基礎医学(解剖・生理・病理・薬理)

攻略法

  • 人体の構造・機能をイメージしながら学ぶ(心臓・肺・腎臓の働きを重点的に)
  • 病理学では「病気ごとの特徴・治療法」を覚える(例:心筋梗塞→冠動脈閉塞)
  • 薬理学では、医療機器と関連する薬(降圧薬・抗凝固薬など)を重点的に学習

おすすめ教材
「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)(ビジュアル解説が分かりやすい)
臨床工学技士用テキスト(医学書院・南江堂など)

② 臨床医学(循環器・呼吸器・腎臓・救急医療)

攻略法

  • 心電図の基礎を理解し、ペースメーカーの適応疾患を覚える
  • 人工呼吸器・透析の適応疾患を学習し、症例問題に慣れる
  • ショック・蘇生・集中治療(ICU)の基本を押さえる(特にECMO・輸液管理)

おすすめ教材
「イヤーノート(臨床医学総合テキスト)」
「心電図の読み方がわかる本」

③ 医用工学(電気・電子・機械工学)

攻略法

  • オームの法則・電気回路・直流・交流の基礎をしっかり復習する
  • トランジスタ・オペアンプ・バイオセンサーなどの仕組みを理解
  • 計算問題を解いて、流体力学・ポンプの原理を身につける

おすすめ教材
「医用工学入門」(基礎をしっかり学ぶ)
「電気・電子工学の基礎」(計算問題対策)

④ 医療機器学(人工呼吸器・透析・人工心肺・ペースメーカー)

攻略法

  • 医療機器の基本構造・作動原理・適応疾患を理解する
  • 人工呼吸器のモード(CPAP・BiPAP・SIMVなど)を覚える
  • 透析装置の操作方法、血液ポンプ・透析液の管理を学ぶ
  • 人工心肺装置・ECMOの適応と管理について理解する

おすすめ教材
「臨床工学技士国家試験対策 医療機器学」
「人工呼吸器の基本と設定」

3. 過去問・模試の活用方法

過去問は最低10年分解く

  • 解説をしっかり読み、なぜ間違えたのか分析する
  • 間違えた問題はノートにまとめ、復習を繰り返す

模試を受けて時間配分を学ぶ

  • 試験本番の形式に慣れるため、模試を最低2回は受験する
  • 試験時間内に解く練習をする(本番と同じ条件で)

記憶定着のためにアウトプット学習を行う

  • 友人と問題を出し合う、講義ノートを見直す

取得後に出来ること

1. 医療機関での業務(主に病院・クリニック)

① 生命維持管理装置の操作・管理

主な機器:人工呼吸器、透析装置、人工心肺装置、ECMO、補助循環装置 など

設備 業務内容
人工呼吸器 ICUや救急での換気管理、設定・異常対応
血液透析装置 透析患者の治療、透析液の管理、装置メンテナンス
人工心肺装置 心臓手術時の体外循環操作
ECMO(体外式膜型人工肺) 重症呼吸不全・心不全の患者の管理
ペースメーカー・ICD 植込み型デバイスの設定・フォローアップ

2. 透析センターでの業務

  • 血液透析(HD)・腹膜透析(PD)の機器管理
  • 透析液の清浄化、患者のモニタリング、トラブル対応
  • 透析患者の生活指導(食事・水分管理など)

3. 手術室・ICU・救急での業務

  • 心臓手術時の人工心肺装置の操作(体外循環管理)
  • ECMO(重症呼吸不全・心不全の患者用)の管理
  • 人工呼吸器・補助循環装置の設定・管理
  • 緊急時の医療機器トラブル対応

4. 医療機器の保守・点検(ME機器管理)

  • 病院内のすべての医療機器の点検・管理
  • 定期メンテナンス・機器のトラブル対応
  • 新しい医療機器の導入・教育(医師・看護師向け)

5. 医療機器メーカー・企業での業務

① 医療機器メーカー(技術営業・アプリケーションスペシャリスト)

  • 医療機器の販売・納入・使用方法の指導(営業・サポート)
  • 病院や医療従事者向けに機器の説明・トラブル対応

② 医療機器開発・品質管理(エンジニア・研究職)

  • 新しい医療機器の設計・開発・臨床試験
  • 医療機器の品質管理・安全試験・規格適合評価

6. 行政・公務員(厚生労働省・PMDAなど)

  • 医療機器の安全規制・審査(PMDA:医薬品医療機器総合機構)
  • 病院の医療機器管理の指導・監査(都道府県の薬務課)

7. キャリアアップ・専門資格の取得

臨床工学技士は、専門資格を取得することでさらに高度な業務に従事可能になります。

① 認定・専門資格(キャリアアップ)

資格 主な内容
透析技術認定士 透析療法のスペシャリスト
3学会合同呼吸療法認定士 人工呼吸器管理の専門資格
体外循環技術認定士 人工心肺装置・ECMOの専門技術者
高気圧酸素治療技士 高気圧治療装置の専門資格
医療機器安全管理者 医療機器の保守・安全管理を担う

② 大学・大学院進学(教育・研究職)

  • 大学の教員として臨床工学技士の教育に携わる
  • 医療工学・バイオメディカル分野の研究職として活躍

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