ITストラテジスト試験(ST)は、経営戦略とITを結びつけ、デジタル技術を活用した事業変革、業務改革、新サービス創出、競争優位の確立を企画・推進できる人材を対象とした高度国家試験です。単なるIT知識ではなく、経営課題を分析し、IT投資の方向性を決め、関係者を巻き込みながら成果につなげる力が問われます。
ITストラテジスト試験を30秒で確認
- 経営とITを結びつける高度国家試験
- 2026年度はCBT方式・前期試験として実施
- 科目A-1:50分30問、A-2:40分25問
- 科目B-1:90分・3問中2問、B-2:120分・2問中1問
- B-2は論述式で、自身の経験や想定事例をもとに論文を書く
- 2025年度春期の合格率は15.0%
- CIO、CTO、ITコンサルタント、DX推進、事業企画などと相性がよい
- 現行制度は2026年度で終了し、2027年度から新試験制度へ移行予定
| 資格名 | ITストラテジスト試験 |
|---|---|
| 略号 | ST |
| 英語名称 | Information Technology Strategist Examination |
| 資格種別 | 国家試験 |
| 実施団体 | 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) |
| 位置づけ | 高度試験・レベル4相当 |
| 2026年度方式 | CBT方式・前期 |
| 受験資格 | 制限なし |
| 受験手数料 | 7,500円(税込) |
| 主な対象 | CIO/CTO候補、ITコンサルタント、DX推進、事業企画、上流工程責任者 |
ITストラテジスト試験とは
ITストラテジスト試験は、経営戦略に基づいてIT戦略を策定し、ITを活用した事業革新や業務改革を企画・推進する能力を評価します。技術を「導入すること」自体が目的ではなく、事業成果へどう結びつけるかを考える試験です。
IPAは、経営戦略に基づいてIT戦略を策定し、ITを高度に活用した事業革新、業務改革、競争優位を獲得する製品・サービスの創出を企画・推進して、ビジネスを成功に導くCIO・CTOやITコンサルタントを目指す人に適した試験としています。
「技術に詳しい」だけでは足りない
STでは、技術選定より前に「何を変えるべきか」「なぜ投資するのか」「どの成果を狙うのか」を考えます。経営課題、顧客価値、競争優位、投資効果、組織変革まで含めて説明できることが重要です。
試験概要
| 科目 | 時間 | 形式 | 出題数 | 解答数 |
|---|---|---|---|---|
| 科目A-1 | 50分 | 四肢択一 | 30問 | 30問 |
| 科目A-2 | 40分 | 四肢択一 | 25問 | 25問 |
| 科目B-1 | 90分 | 記述式 | 3問 | 2問 |
| 科目B-2 | 120分 | 論述式 | 2問 | 1問 |
2026年度からCBT方式へ移行し、従来の午前Ⅰ・午前Ⅱ・午後Ⅰ・午後Ⅱは、科目A-1・A-2・B-1・B-2へ名称変更されています。
科目A-1の特徴
科目A-1は高度試験共通のIT全般知識を問います。ストラテジ分野だけでなく、テクノロジ、マネジメント、セキュリティ、データベース、ネットワークなど幅広い知識が必要です。
| 分野 | 主な内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 基礎理論 | 論理、統計、アルゴリズム | 頻出問題を反復 |
| コンピュータ | OS、仮想化、クラウド | 技術用語を事業利用と結び付ける |
| ネットワーク/DB | 基礎構造と役割 | 専門外でも最低限確保 |
| セキュリティ | リスク、認証、攻撃、管理 | 経営リスクの観点も意識 |
| マネジメント | PM、サービス管理 | 意思決定・統制と結びつける |
| ストラテジ | 経営戦略、会計、法務 | 重点的に得点源へ |
科目A-2では何が問われる?
科目A-2は、経営戦略、IT戦略、事業企画、情報システム戦略、組織・人材、会計、法務など、ST固有の専門知識を短時間で問います。
| テーマ | 具体例 | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 経営戦略 | 競争戦略、事業ポートフォリオ | IT施策とのつながり |
| マーケティング | 顧客分析、セグメント、価値提案 | 顧客価値を言語化 |
| IT戦略 | DX、ITロードマップ、投資計画 | 経営課題から逆算 |
| 業務改革 | BPR、標準化、自動化 | 現状課題と改革効果 |
| データ活用 | 分析、AI、データ基盤 | 意思決定と競争優位 |
| 投資評価 | ROI、NPV、回収期間 | 定量・定性の両面 |
| 組織・人材 | ガバナンス、体制、人材育成 | 実行可能性を考える |
| 法務・リスク | 契約、知財、個人情報 | 事業リスクとして整理 |
科目B-1の特徴
科目B-1は、90分で3問中2問を解答する記述式です。事業課題や経営環境を読み、IT戦略、事業改革、新サービス、データ活用などについて、問題文の条件に合わせて短く記述します。
| 出題テーマ | 問われやすいこと |
|---|---|
| IT戦略 | 経営課題と施策の整合性 |
| DX | 既存事業の変革、新サービス創出 |
| 業務改革 | 現行業務の問題と改善策 |
| データ活用 | データ収集・分析・意思決定 |
| 投資計画 | 費用対効果・優先順位 |
| 組織改革 | 推進体制、権限、教育 |
B-1の解き方
- 最初に設問を読む
- 経営課題・業務課題を分ける
- 施策の目的を確認する
- 施策によって何が変わるか整理する
- 効果を定量・定性の両面で考える
- 問題文にある用語を使って回答する
B-1は「それっぽい経営論」を書かない
一般論として正しくても、問題文にない施策や目的を書くと点になりません。設問が求める範囲と本文の根拠を結び付けることが重要です。
科目B-2は論文試験
科目B-2は120分で2問中1問を選び、論述します。STの最大の難所です。単なる知識説明ではなく、具体的な事業・組織・課題・施策・成果を一貫したストーリーとして書く必要があります。
論文で問われる典型テーマ
| テーマ | 論文で扱う内容 |
|---|---|
| IT戦略策定 | 経営課題、戦略、IT施策、効果 |
| DX推進 | 変革の背景、デジタル活用、組織変革 |
| 新サービス | 顧客ニーズ、価値、競争優位、収益性 |
| 業務改革 | 現状課題、プロセス改革、KPI |
| データ活用 | データ収集、分析、意思決定、成果 |
| IT投資 | 優先順位、投資評価、リスク |
論文の基本構成
| パート | 書く内容 |
|---|---|
| 背景 | 企業・事業・市場・経営課題 |
| 課題 | なぜ現状では目標達成できないか |
| 戦略 | 何を変えるか、なぜその方針か |
| IT施策 | 技術・システムをどう使うか |
| 推進 | 体制、関係者、リスク対応 |
| 成果 | KPI、定量効果、定性効果 |
| 評価・改善 | 結果の確認と次の打ち手 |
論文で重要な「具体性」
「DXを推進した」「業務効率を改善した」だけでは弱く、対象業務、利用者、課題、導入した仕組み、KPI、成果を具体的に書く必要があります。
弱い表現
AIを導入して業務効率を向上させた。
強い表現
問い合わせ対応時間を短縮するため、過去FAQと対応履歴を検索する生成AI支援機能を導入し、平均一次回答時間を20分から8分へ短縮する目標を設定した。
論文ネタの作り方
実務経験が豊富でも、そのままでは試験テーマに合わないことがあります。事前に2〜4本程度の汎用ストーリーを準備し、設問に合わせて変形できるようにします。
| ネタ | 使いやすいテーマ |
|---|---|
| 販売・営業DX | CRM、データ活用、顧客体験 |
| 製造改革 | IoT、予知保全、生産最適化 |
| 社内業務改革 | ワークフロー、RPA、生成AI |
| 新規デジタルサービス | サブスク、アプリ、プラットフォーム |
| データ経営 | BI、データ基盤、KPI管理 |
丸暗記論文は危険
準備した論文をそのまま書くのではなく、当日の設問要求に合わせて背景・課題・施策・評価を書き換える必要があります。
投資評価・KPIの考え方
STでは、IT施策を「導入した」で終わらせず、事業成果をどう測るかまで考える必要があります。
| 評価軸 | 例 |
|---|---|
| 売上 | 新規顧客、客単価、継続率 |
| コスト | 作業時間、人件費、在庫 |
| 品質 | 誤り率、再作業、障害件数 |
| 顧客 | NPS、解約率、回答時間 |
| 業務 | リードタイム、自動化率 |
| リスク | 事故件数、停止時間、法令違反 |
ROIだけでなく定性効果も考える
新規事業、データ基盤、セキュリティなどは、短期的な金額効果だけでは評価しにくい場合があります。意思決定速度、顧客体験、リスク低減、将来の拡張性なども評価軸になります。
難易度・合格率
ITストラテジストは、高度試験の中でも論述力が必要な難関試験です。2025年度春期は、受験者5,586人、合格者836人、合格率15.0%でした。
| 年度・期 | 応募者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年度 春期 | 7,889人 | 5,586人 | 836人 | 15.0% |
合格者平均年齢は40.4歳でした。実務経験を積んだ受験者が多い試験ですが、年齢や役職そのものが受験条件ではありません。
勉強時間の目安
| 受験者タイプ | 目安 | 重点 |
|---|---|---|
| AP合格・戦略未経験 | 300〜500時間 | 経営知識+論文 |
| PL/PM経験者 | 220〜400時間 | 事業戦略・投資評価 |
| ITコンサル経験者 | 150〜300時間 | IPA形式+論文 |
| 事業企画・DX担当 | 180〜350時間 | IT基礎+試験形式 |
| 経営層・管理職 | 180〜350時間 | A科目技術知識+論文 |
勉強方法
1. 経営戦略の基本を整理する
SWOT、5 Forces、バリューチェーン、マーケティング、会計、投資評価などを、単なるフレームワーク暗記ではなく「いつ使うか」で理解します。
2. IT戦略へ落とし込む
経営課題→事業戦略→IT戦略→施策→KPIというつながりで考えます。IT施策だけ先に考えないことが重要です。
3. B-1で問題文の根拠を拾う
設問を先に読み、顧客・競合・業務・データ・投資の観点で本文を分解します。
4. B-2論文を実際に書く
論文対策は、構成だけ考えて終わらず、120分で実際に書き切る練習が必要です。
5. 採点講評を読む
IPAの採点講評から、受験者がどのような一般論・具体性不足で失点しているかを確認します。
6か月学習プラン
| 期間 | 学習内容 | 到達目標 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 経営戦略・会計・マーケティング | 基本用語を説明できる |
| 2か月目 | IT戦略・DX・投資 | 経営課題から施策を考えられる |
| 3か月目 | B-1過去問 | 90分で2問を処理 |
| 4か月目 | 論文ネタ作成 | 3本程度のストーリーを準備 |
| 5か月目 | B-2論文演習 | 120分で完答 |
| 6か月目 | 総合演習 | A/Bを通して弱点補強 |
不合格になりやすいパターン
| 失敗 | 原因 | 改善 |
|---|---|---|
| 技術説明に寄りすぎる | 経営目的が弱い | 最初に事業課題を書く |
| 論文が抽象的 | 数字・対象がない | KPI、利用者、業務を具体化 |
| 成果だけ書く | プロセスが見えない | 課題→施策→推進→評価を書く |
| 丸暗記論文 | 設問要求とずれる | 当日テーマに合わせて変形 |
| A科目を軽視 | 論文対策に偏る | A-1/A-2も定期的に確認 |
科目A-1免除制度
他の高度試験やSCなど、IPAが定める条件を満たしている場合、科目A-1が免除されることがあります。免除できる場合は、A-2とB対策に時間を集中できます。
過去のAP・高度試験等の合格歴を確認
免除対象期間には条件があります。申込前に自分の資格・合格時期が対象かIPAの案内を確認してください。
取得するメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 経営とITを結びつける力 | 技術導入を事業成果へつなげる視点を持てる |
| 上流工程の証明 | 構想、企画、戦略策定の知識を示せる |
| DX推進 | 業務改革・データ活用を体系化できる |
| コンサルティング | 課題分析・提案・投資評価に活かせる |
| 経営層との対話 | ITを技術ではなく経営課題として説明できる |
活かせる仕事
| 職種 | 活かせる業務 |
|---|---|
| ITコンサルタント | IT戦略、DX、業務改革 |
| CIO/CTO候補 | IT投資、ガバナンス、技術戦略 |
| DX推進 | 全社変革、データ活用、組織改革 |
| 事業企画 | 新規サービス、デジタル事業 |
| 社内SE責任者 | ITロードマップ、投資計画 |
| PM/PL | プロジェクトの事業目的理解 |
どんな人に向いている?
| タイプ | おすすめ度 | 理由 |
|---|---|---|
| ITコンサル | 非常に高い | 業務と試験内容が直結 |
| DX・事業企画 | 高い | 戦略とITを体系化できる |
| PM/PL | 高い | 事業視点を強化できる |
| 管理職 | 高い | IT投資・改革の判断力を補強 |
| 若手エンジニア | 中 | 実務経験が少ないと論文が難しい |
PM・SA・中小企業診断士との違い
| 資格 | 主な焦点 | 違い |
|---|---|---|
| ITストラテジスト | 経営戦略×IT | ITを使って事業成果を生む |
| プロジェクトマネージャ | プロジェクト遂行 | 計画・進捗・品質・リスク管理 |
| システムアーキテクト | システム設計 | 要件からアーキテクチャへ落とす |
| 中小企業診断士 | 経営全般 | IT以外も含む経営診断・助言 |
STと中小企業診断士は競合ではなく補完できる
STはIT戦略・DXに強く、中小企業診断士は経営全般を広く扱います。ITコンサルやDX支援では両方の知識が補完関係になる場合があります。
2026〜2027年度の制度変更
| 時期 | 変更 |
|---|---|
| 2025年度まで | ペーパー方式、午前Ⅰ・午前Ⅱ・午後Ⅰ・午後Ⅱ |
| 2026年度 | CBT方式、A-1・A-2・B-1・B-2へ名称変更 |
| 2026年度 | 前期試験として実施 |
| 2026年度終了後 | 現行試験制度は終了予定 |
| 2027年度 | 新試験制度へ移行予定 |
2027年度受験者は新制度のシラバスを確認
IPAは2027年度から新試験制度へ移行する予定で、試験区分体系・出題範囲・サンプル問題・シラバスが順次公開されています。2026年度向け教材だけで準備する場合は差分確認が必要です。
よくある質問
実務経験がなくても受験できますか?
受験資格に実務経験の条件はありません。ただしB-2論文では具体的な事業・組織・施策を書くため、実務経験が少ない場合はケーススタディを使って論文ネタを準備する必要があります。
ITコンサルでなくても受験できますか?
受験できます。PM、社内SE、DX推進、企画、管理職など、経営とITをつなぐ仕事で活かせます。
論文は何文字書けばいいですか?
設問ごとに指定字数があります。重要なのは長さよりも、設問要求に沿って背景・課題・施策・評価を具体的に書くことです。
論文ネタは実話でないといけませんか?
試験では、設問に沿った具体的で一貫した内容を書くことが重要です。自身の経験をベースにしつつ、必要に応じて一般化・再構成して準備する方法があります。
APに合格していなくても受験できますか?
受験資格にAP合格は必要ありません。ただしA-1の広いIT知識が必要なため、AP相当の基礎があると学習しやすいです。
技術に弱くても合格できますか?
可能ですが、A-1ではIT全般の知識が必要です。Bでは経営・戦略寄りでも、ITの特徴と制約を理解したうえで施策を説明する必要があります。
独学で合格できますか?
可能です。過去問、解答例、採点講評を使い、B-2論文を実際に複数本書いて添削観点を身につけることが重要です。
2027年度も同じ試験ですか?
現行制度は2026年度で終了予定です。2027年度から新試験制度へ移行するため、正式な試験区分・シラバスを確認してください。
ITストラテジスト試験のまとめ
ITストラテジスト試験は、技術そのものではなく、経営課題を起点にITを使って事業成果を生み出す力を評価する高度国家試験です。A-2で経営・IT戦略の知識を固め、B-1で問題文から課題と施策を読み取り、B-2では具体的な事業ストーリーを一貫して論述できるようにすることが合格のポイントです。
情報確認:2026年10月
主な確認先:IPA「ITストラテジスト試験」「令和8年度 応用情報技術者試験、高度試験及び情報処理安全確保支援士試験の申込受付期間及び試験実施期間」「令和7年度春期試験 合格発表」「問題冊子・解答例・採点講評」「試験制度の見直しについて」。
